知っておきたい「フードファディズム」とは?プラントベースの食生活での注意点と付き合い方
近年、テレビやインターネットで「〇〇が健康に良い」「〇〇を食べると病気になる」などの情報を目にする機会が増えています。プラントベースの食生活で取り入れている食品がピックアップされていると、つい試してみたくなる方もいるでしょう。しかし、その情報は100%正しいといえるでしょうか?現代は情報化社会だからこそ、健康リテラシーを上げて自分自身の健康を守ることが大切です。
フードファディズムとは
フードファディズムとは、特定の食品や栄養が健康、病気に良い影響を与えると過大評価し、信じることです。例えば「〇〇を食べれば健康になる」「〇〇を抜くと痩せる」「〇〇だけ食べていれば病気にならない」など、特定の食品に注目した情報を目にしたことがある方もいるのではないでしょうか?もちろん、食品のなかには身体にとって必要な栄養素が含まれているものもありますが、過信し過ぎると思わぬ弊害をおよぼしかねません。
また、フードファディズムの概念は、1952年にアメリカのマーティン・ガードナー氏の著書によって初めて紹介されました。日本では1990年代後半に、栄養学者の高橋久仁子氏が紹介し、広く知られるようになったといわれています。
過去にあったフードファディズムの事例
身近な食材でも食べ方を間違えると、健康に悪影響をおよぼすことがあります。ここからは、実際にあったフードファディズムの事例を3つ紹介します。
寒天(2005年夏)
テレビ番組で「寒天を食べると健康的に痩せられる」と放送されたことがきっかけとなり、スーパーの食料品売り場から寒天の売り切れが続出したケースです。番組で一定期間、寒天を食べるグループと通常食のままのグループで実験を行い、前後の体重や血糖値などを比較した結果、寒天を食べるグループでは改善がみられました。しかし、実験に参加する方々は、無意識に普段よりも食事を意識している可能性が高いのではないでしょうか?実際に通常グループでも改善がみられたことにより、実験することで食行動が変わるきっかけになったと推測できますが、この結果については言及されていませんでした。つまり、寒天の良い部分のみ評価していたため、寒天を食べれば痩せるといったフードファディズムが起きてしまったのです。
白インゲン豆(2006年春)
白インゲン豆のフードファディズムによって、食中毒事件が発生したケースもあります。厚生労働省の報告によると、豆による食中毒の患者数は158名であり、食べた量は大さじ2杯程度と回答した方が多かったとのことです。食中毒が起こった背景として、テレビ番組にて「炭水化物と一緒に白インゲン豆を食べれば太らない」といった内容が放送されたことがあげられます。番組内で、白インゲン豆を3分ほど加熱してミルなどで粉状にした後、ご飯にまぶして食べると、豆に含有されているα-アミラーゼ阻害物質がデンプンの消化を妨げるため痩せやすくなるとされていました。
しかし、白インゲン豆は十分加熱しなければ、豆に含まれるレクチンなどの有害物質は無毒化されません。インゲン豆のレクチンは75℃の加熱では毒性が残り、沸騰した状態で5~10分加熱すると失活するといわれているからです。α-アミラーゼ阻害物質の効果を得る以前に、不十分な加熱により嘔吐や下痢などの症状がみられやすくなり、かえって健康被害につながったといえるでしょう。
このフードファディズムのもうひとつの注意点は体重50kgの場合、血糖値の上昇を抑えるためにはα-アミラーゼ阻害物質が約2.5g必要ということです。α-アミラーゼ阻害物質は豆1kgあたり、1gしか摂れません。白インゲン豆の粉末を大さじ2杯摂取しても、気休め程度にしかならないということです。この事例では、大量摂取による健康被害にも配慮する必要があったといえます。食べ方が注目されていますが、白インゲン豆には良質なたんぱく質が含まれているため、上手に取り入れることが大切です。
納豆(2007年冬)
テレビ番組で「1日2パックの納豆を朝晩良くかき混ぜて20分放置してから食べると、食生活を変えずに2週間で減量に成功する」と放送し、スーパーから納豆の品切れ状態が続いた事例です。しかし、納豆が体脂肪を減らす根拠に乏しいこと、納豆を良くかき混ぜてから放置しても基礎代謝は上がらないということが判明しました。また、上述した法則通りに食べれば痩せると主張していますが、同量の納豆をこの法則に従わずに食べたグループの結果はありません。比較対象がない上に、その他の理由が考慮されておらず、効果が認められたとは言い難いといえます。
【フードファディズム】プラントベースの食生活で注意すべき問題点
プラントベースの食生活を続ける理由は人それぞれです。体重や体型が気になって食事を変える方や、環境保護や動物愛護などの観点から植物性食品中心の食生活にしている方もいます。しかし、〇〇しか食べないなど行き過ぎた食事制限は、かえって健康に悪影響をおよぼしかねません。ここでは、フードファディズムにどのような問題点があるのかみていきましょう。
フードロスにつながりやすい
フードファディズムの影響で特定の食品が一気に減少することは少なくありません。テレビや雑誌などで特定の食品を取り上げた後、その食品がブームとなりスーパーの陳列棚にほとんどなくなっていたということもあり得るのです。しかし、食のブームは一過性のことが多く、フードロスが発生する事態にもなりかねません。在庫切れにならないように揃えておいても、ブームが過ぎれば通常よりも多く用意していた食品は余ってしまい、フードロスにつながってしまいます。
健康に悪影響を与えるおそれがある
食品の情報を信じることは必ずしも悪いことではありません。しかし、過信し過ぎると健康に悪影響をおよぼすおそれがあります。その情報が科学的根拠に基づいたものなのか、1日に必要な栄養素の摂取量をオーバーしてしまわないか、栄養バランスが偏ってしまわないかなど、総合的に判断して選ばなければかえって健康を損なうリスクが高まってしまうため注意しましょう。
必要な人に届かない可能性がある
食のブームによって食品を入手しにくい状況になると、必要なときに使用できなくなる可能性があります。実際に、学校の調理実習で使う食材が手に入りにくくなってしまい、授業に支障が出てしまったというケースもあるようです。
フードファディズムとの上手な付き合い方
フードファディズムに巻き込まれないようにするためには、情報を正しく読み解く力が必要です。現代ではさまざまな健康関連の情報が溢れています。本やインターネット、テレビなどから簡単に健康情報を入手できますが、これらの情報は万人に向けて発信していることが多く、個人の体質までは考慮されていないこともあるでしょう。身体に必要な栄養素がもともと不足している場合、特定の食品ばかり食べるようになってしまうと、栄養バランスが乱れやすくなります。そのため、栄養のある食品をバランス良く食べることが大切です。特にプラントベースの食生活を続けている方は、たんぱく質やビタミンB12などの栄養素が不足しがちです。健康情報に振り回されることなく、身体に必要な栄養素をしっかりと補いましょう。
健康を意識したプラントベースの食生活は環境にも優しい
フードファディズムによって、食事を楽しめなくなってしまっては本末転倒です。プラントベースの食生活でも栄養バランスの良い食事を心がけることで、健康的に過ごすことができます。また、プラントベースの食生活を意識すると、環境保護や動物愛護にもつながることをご存知ですか?家畜を育てるためには飼料を作るための土地やエサを輸送するための燃料など、多くの資源が必要です。環境に負荷がかかるおそれがあるとともに、家畜が排出する温室効果ガスのひとつであるメタンガスによって、地球温暖化を進めてしまう可能性があります。その点、植物性食品を中心としたプラントベースの食生活を意識すると、自然と環境に優しい取り組みができるでしょう。
まとめ
フードファディズムは、どの時代でも起こり得ることです。食のブームが過ぎれば、また新しいブームが生まれるでしょう。しかし、どんな情報が出てきたとしても、良し悪しをしっかりと判断できれば自分の健康は守れるはずです。フードファディズムに振り回されることなく、健康的な生活を心がけましょう。