COLUMN

2022.01.12

COLUMN今見るべき映画/ドキュメント/環境/食糧/畜産/SDGs

映画『フード・インク』。食の問題に対して私たちができること

私たちが毎日の食卓に並べる食材を買うスーパーマーケットには年間通して季節を問わず、さまざまな食材がずらりと並んでいます。肉類はきれいにパック詰めされ、私たち消費者はその1つを選び、あとは包丁で切り分けるだけという便利な状態が当たり前のようになっています。
しかし、それら数々の食品がスーパーに並ぶまでにどのような経緯があったのかについて、私たちはほとんど知りません。パック入りの肉はもちろん生きた動物だったわけで、その動物がどのような環境で育ち、処理され、私たちの手元に届いているのか、ふだんは想像すらする機会もないのではないでしょうか。

『フード・インク』は、2008年にアメリカで公開し、第82回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた作品です。フード・インク(邦題『Food, Inc.』)のインクとは「企業」のこと。アメリカの食を担っている、巨大「企業」と化した食品産業と一般消費者との間に引かれたカーテンの向こう側にある、「不都合な真実」を映し出したドキュメンタリー映画です。映画『ファーストフード・ネイション』の原作者としても知られるジャーナリスト、エリック・シュローサーがプロデューサーを務め、作成内でもガイドとしての役割を果たしています。消費者が見てしまうと「食欲を失う」可能性がある、食品製造の現場撮影は非常に困難だったようです。
実際、「撮影自体には2年かかっている。ほとんどの場所で撮影許可が得ることが難しかった」と監督のロバート・ケナーはインタビューで語っています。


参考元:https://crisscross.jp/html/a10hu028.htm


しかしそんな厳しい条件の中、フライドチキンになる鶏やハンバーガーの肉になる牛や豚が育つ劣悪な環境、食肉が加工される現場の危険な実情などが映像として記録されています。作品中の説明では、(撮影当時のアメリカにおいて)食品加工工場内の写真の出版を違法とすることが検討されていたとのこと。センシティブな時期におさめられた映像は非常に貴重なものだと言えるでしょう。

50年前の半分の日数で2倍の大きさに育つものの骨と内臓が弱く、数歩歩いただけで倒れてしまう鶏。その鶏を育てる農家たちが受ける大企業からの搾取。養鶏の中でも特に過酷な作業を担う貧しい不法労働の移民たち。養鶏だけを例にしても、大企業による市場独占と効率化の影には根深い問題が隠れていることを知らされます。

また、除草剤とセットで開発されたGMO(遺伝子組み換え)とうもろこしや大豆などが一気に農業と食品産業を席巻、支配している現状についても鋭く切り込んでいます。収穫物から種を引き継いでいく、そんな農家として当たり前の営みが今や不法行為として取り締まられてしまうという事実。このような受け入れがたい不条理が日本でも近い将来に現実になってしまうかもしれない、と思うと大きな危機感を覚えます。

また、除草剤が環境そして健康に与える影響も底知れないものがあります。大企業が利益と効率を優先させた結果、本来は命を守り、育てるはずの食が私たちの暮らしや命を根底から脅かしてしまっているのです。

「私の息子よりも企業が優先されていると感じる」。
大腸菌「O−157」に汚染されたハンバーガーによって幼い子を亡くした母親の言葉が問題の核心をついています。日本でも多くの死者を出し、危険性が広く知られているO-157の感染拡大の影には、企業の行き過ぎた利潤追求と企業に忖度する国の愚策が隠されているのです。
確かに、衝撃的な情報や映像が続く作品ではありますが、テーマごとに章立てになっていて観やすく、エンターテイメント性も兼ね備えた映画でもあります。場面展開のテンポも良く、「全米の牛肉をたった13カ所の工場で加工している」「2000年以降生まれのアメリカ人の3人の1人が糖尿病予備軍」「アメリカの畑の30%がとうもろこし畑である」などの、明確なデータをテーマごとに挟みつつ、私たちが向き合うべき問題をわかりやすく示してくれます。

「システムを変えるチャンスが1日3回ある」と、最後に示されるメッセージは非常に明快に、私たちができることを教えてくれています。それはつまり、毎日自分たちが食べるものがどのように作られたのかを知ろうとすること、そして、良いものを求めることです。そしてその手段はとても大きな力を持っています。作品中にもあるように、「消費者が求めるならば」と、アメリカ最大級のスーパーマーケットチェーンが成長ホルモン剤不使用の牛乳やオーガニック食品を取り扱うようになったことがその良い例です。

また、あるとうもろこし農家の男性は作品の後半に、「安全な食品を求める、というなら要求してくれば届けるよ、約束するよ」と語っていました。私たちが安全な食品を求めることを、生産者の方たちも待っているのです。

私たちが食について知り、安全なものを求める行為は自分たちの健康を守るだけでなく、生産者や自然環境を守ることにつながる1つの大きな希望なのだということを教えてくれる作品です。サステイナブルライフやベジタリアン、ウェルネスや環境問題に興味のある方には必見だと言えるでしょう。ドキュメンタリー映画「フード・インク」は2021年12月現在Amazon Prime Video、U-NEXTで視聴可能です。