COLUMN

2022.01.25

COLUMN今見るべき映画/ドキュメント/環境/食糧/畜産/SDGs

食生活を変えれば世界が変わる。映画「Cowspiracy:サステイナビリティ(持続可能性)の秘密」

「最後に私たちが覚えているのは敵の言葉ではなく、味方の沈黙だ」

こんなキング牧師の言葉から映画は始まります。その意味するところとは・・・?

「Cowspiracy:サステイナビリティ(持続可能性)の秘密」は2014年にアメリカで公開されたドキュメンタリー映画です。2017年に「What the Health(健康って何?)」、2021年には「Seaspiracy:偽りのサスティナビリティ漁業」などのドキュメンタリー映画を撮ったキップ・アンデルセン監督の初作品です。レオナルド・ディカプリオがエグゼクティブ・プロデューサーとなったことでも話題になりました。

ごく普通の自然を愛する青年だった監督は映画「不都合な真実」を見て大きなショックを受け、すぐに生活スタイルを変えた、と語ります。移動手段を自転車にし、電球をLEDに変え、シャワーの時間を短縮し、ゴミの分別に努め、環境保護活動にのめりこんだのです。

しかし、それでも環境は悪化の一途をたどります。

「人類全体が意識を変えても地球は救えないのかも?何か見逃しているのかもしれない」そんな疑問を抱いた監督は調査を始め、ある国連の報告を見つけます。それは、
 
「畜産業の排出する温室効果ガスは、乗用車、トラック、鉄道、船舶、飛行機の合計を上回る」というものでした。
 

しかし、国際的に活動しているどの環境保護団体のホームページを見ても、畜産業が与える悪影響について一切の言及がありません。そのことに疑問を持った監督は各団体にメールや電話で問い合わせるものの、ほとんどの団体が反応も示さないのです。

世界銀行のある専門家が、人間が起こす温暖化原因の51%が畜産になるとの試算も出していることもわかりました。それなのに、なぜ環境保護団体は化石燃料のことばかりを糾弾するのか?

「海面上昇によって国全体が沈んだり、大規模な干ばつで食糧を供給できず、他国を侵略するものも現れるはず。“地球温暖化戦争”が起きるのです」

地球温暖化に対して、そのように激しく警鐘を鳴らした環境保護団体「シエラクラブ」のハミルトン氏も、

「それでは畜産業についてはどうです?」と監督に問われると、「どうって?」と、まるでとぼけているかのような反応を見せます。

「ずっと支持してきた環境団体に、無視されてしまった・・・」

映画の冒頭、キング牧師の言葉にある「味方の沈黙」とはこのことだったのです。

世界銀行の専門家の試算を、国際的に活動する環境保護団体の幹部が何も知らないわけはないはず。監督は裏に何か巨大な闇があると気づき、さまざまな専門家たちに取材を重ねます。そして、映画は謎解きのような流れで展開していきます。

環境問題に深く切り込んだドキュメンタリー映画には、衝撃的なデータや事実を突きつけられる、という共通点があります。そして、この作品もその例に漏れません。

畜産が温暖化に与える影響力は車両の86倍。

ハンバーガー1個を作るのに消費される水は2500リットルで、2ヶ月間シャワーを浴び続けるのと同じ量。

1万年前は地球上の生物の99%が野生動物だったが、1万年後の現在はその数字が逆転し

98%が人間と家畜、たった2%が野生動物。

アマゾンのジャングルが消滅した理由の91%が家畜の飼育。

家畜の飼育のために毎秒ごとにアメフト場ほどの広さで森林が失われ、その影響で毎日100にも及ぶ生物の種が絶滅している。

次々に見せつけられてしまうデータは本当にショッキングですが、アニメーションを使って視覚的に非常にわかりやすく、時にユーモラスに表現されます。サステイナブルについて学ぶには、絶好のテキストだと言えるでしょう。

映画の後半では、取材先で鴨が捌かれる場面を見てショックを受けたことも契機となり、「これ以上動物を殺したくない」と菜食主義になることを決意する監督の姿も描かれます。

そんな優しい青年が、

「人類が地球と仲良くいつまでも暮らせるように」

との純粋な思いで、巨悪とも呼べる業界の闇に果敢に挑んだ作品です。映画の制作途中でスポンサーに援助を打ち切られるという、ドキュメンタリーならではの展開も訪れます。

どの段階でエグゼクティブ・プロデューサーになることが決まったのか、はっきりとしたことはわかりませんが、ディカプリオの助けがあったからこそ公開にまでこぎつけられた作品なのかもしれません。レオ様、ありがとう!

食生活を変えれば世界が変わる。映画「Cowspiracy:サステイナビリティ(持続可能性)の秘密」は2022年1月現在、NETFLIXで視聴可能です。