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2023.11.11

COLUMNフレキシタリアンについて/ライフスタイルベジタリアンについて/ライフスタイル現代食生活について/ライフスタイル環境について考えてみよう/環境/食糧/畜産/SDGs

管理栄養士が解説|ヴィーガンで栄養不足にならないために【フレキシタリアンもおすすめ】

ヴィーガンになる理由は健康志向、環境保護、動物愛護など、人によってさまざまです。
とはいえ、間違った方法でヴィーガン生活を続けていると、健康を害してしまうおそれがあるため注意が必要です。

今回は管理栄養士の下田さんにヴィーガンが不足しやすい栄養素と、健康的に過ごすためのポイントをご紹介していただきます。
ライターの下田さんについては下記のページを参照ください。

食事のスタイルには、ヴィーガンのほかにもゆるベジタリアン(フレキシタリアン)という選択肢もあります。
この記事でも解説しているので、気になる方はぜひ参考にしてみてください。

ヴィーガンは栄養不足になりやすい

2023年7月に、ヴィーガンのインフルエンサーが栄養不足により餓死したという痛ましいニュースがありました。
亡くなったインフルエンサーは4年間、「フルーツ、ヒマワリの芽、フルーツスムージー、ジュース」だけしか口にしなかったといわれています。
直近6年間は、水分も摂取していなかったらしく、極端な食事制限による体への負担は相当のものだったと推測されます。

無理のない範囲でヴィーガンの食生活を続けていれば、健康面や環境面への配慮ができるメリットがありますが、過度な食事制限は栄養不足を招きかねません。
健康的な生活を送るためにも、栄養について知る必要があります。

ヴィーガンが不足しやすい栄養素

ヴィーガンの食生活は、たんぱく質、ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム、オメガ3脂肪酸、鉄、亜鉛が不足しやすいため注意が必要です。まずは、ヴィーガンが不足しやすい栄養素について解説します。

出典:「ビーガン食の健康への影響」(NLM|NIH(アメリカ国立衛生研究所)保健福祉部 米国政府)

不足しやすい栄養素①たんぱく質

肉や魚、卵などを食べない生活が続くと、たんぱく質不足が懸念されます。
たんぱく質は、筋肉や臓器、皮膚や髪などを構成する成分であり、ホルモン・酵素・免疫体を作る材料としての役割もあります。
不足すると、筋肉量の減少、基礎代謝や免疫機能、集中力の低下などがみられるため、過不足なく摂ることが大切です。

たんぱく質は大豆製品にも多く含まれているため、豆腐や納豆などを積極的に食べると良いでしょう。
これらの主原料である大豆には、ヴィーガンに不足しがちなビタミンや鉄も豊富に含まれています。

出典:「たんぱく質(たんぱくしつ)」(厚生労働省e-ヘルスネット)

不足しやすい栄養素②ビタミンB12

ビタミンB12は動物性食品に多く含まれている栄養素なので、ヴィーガンは不足しやすいといわれています。
ビタミンB12は、赤血球の生成のサポート、たんぱく質や核酸の生合成、アミノ酸や脂肪酸の代謝に関与しています。
不足すると、疲れやすくなる、息切れやめまいなどが起こりやすくなるため注意しましょう。

ビタミンB12はのりに多く含まれていますが、のりだけでは必要量を満たすことは難しいものです。
サプリメントや強化食品(強化シリアル、強化プロテインなど)などを上手に活用しながら、栄養を補うことをおすすめします。

ほかにも、ニュートリショナルイースト(糖蜜を使って酵母を発酵させて作られるスーパーフード)には、ビタミンB12が豊富に含まれているため、不足しがちな栄養補給にぴったりです。
スプーン1杯を目安に料理に混ぜると、チーズの風味が加わるためアレンジのもポイントのひとつです。

出典:「ビタミンB6/B12の働きと1日の摂取量」(厚生労働省e-ヘルスネット)

不足しやすい栄養素③ビタミンD

ビタミンDは鮭やサンマなどに多く含まれているため、ヴィーガンは不足しがちです。
ビタミンDは、カルシウムの吸収をサポートし、骨の成長促進、血中カルシウム濃度を調節する働きがあります。
特に、ビタミンDはきのこ類に豊富に含まれているため積極的に食べるようにしましょう。また、ビタミンDは油との相性が良いので炒め物にしたり、オイル系のドレッシングをかけたりすると吸収率が良くなります。

食事以外でも、ビタミンDは日光浴をすると作られるので散歩などを習慣にするのもおすすめです。夏であれば15~30分/日ほどの日光浴で十分です。
しいたけを日光に当てると、ビタミンDを強化することもできるのでぜひ試してみてください。干ししいたけも使う前に日光に当てればビタミンDが増えるので、ひと手間加えてみてはいかがでしょうか。

出典:「ビタミンDの働きと1日の摂取量」(公益財団法人長寿科学振興財団)
「ビタミンDをつくるのに日光浴が必要 4つの方法で紫外線に対策」(糖尿病ネットワーク)

不足しやすい栄養素④カルシウム

乳製品を摂らないヴィーガンは、カルシウムを十分に補給することができません。
カルシウムは、骨の強化や筋肉収縮、神経興奮の抑制、血液凝固を促進し出血を予防するなどの働きがあります。
不足すると骨折しやすくなるため、普段から意識して摂ることが大切です。

カルシウムを多く含む食品は、厚揚げ、おから、納豆、切り干し大根、ひじきなどです。吸収率を高めるために、ビタミンDやビタミンKを一緒に摂ると良いでしょう。
ビタミンKは、モロヘイヤ、小松菜、ほうれん草、ブロッコリー、納豆などに多く含まれています。
日光浴をするとビタミンDが作られるので、散歩をしながらカルシウムの吸収効率を高めることもできます。

出典:「カルシウム(かるしうむ)」(厚生労働省e-ヘルスネット)

不足しやすい栄養素⑤オメガ3(n-3系)系脂肪酸

オメガ3(n-3系)系脂肪酸は体内で合成できない栄養素です。魚に豊富に含まれているため、ヴィーガンは不足しやすくなります。
オメガ3(n-3系)系脂肪酸には、血液の流れをスムーズにしたり、脳や神経の機能を維持したりする働きがあります。不足すると、皮膚炎などを引き起こす可能性があるため気をつけましょう。

魚以外からオメガ3(n-3系)系脂肪酸を摂るには、くるみ、チアシード、アマニ油、エゴマ油がおすすめです。ただし、アマニ油は熱に弱いので、加熱せずに食べようにしましょう。
納豆にアマニ油を加えたり、サラダのドレッシングに使ってみたりすると、無理なく取り入れることができます。

出典:「オメガ3脂肪酸について知っておくべき7つのこと」(厚生労働省)

不足しやすい栄養素⑥鉄分

鉄分は肉や魚などに多く含まれているため、ヴィーガンは不足しがちです。
鉄分には、全身に酸素を巡らせる働きがあります。
不足すると頭痛や食欲不振、集中力の低下、倦怠感などがみられやすいため注意しなければなりません。

鉄分を多く含む食材は、きな粉、がんもどき、小松菜、サラダ菜などです。ただし、肉や魚はヘム鉄なのに対し、野菜から摂れるのは非ヘム鉄です。
非ヘム鉄はヘム鉄よりも体内での吸収効率が悪いデメリットがあります。

吸収しやすくするために、植物性食品から鉄分を摂るときはたんぱく質やビタミンCと一緒に摂ることをおすすめします。
例えば、サラダに蒸し大豆を追加する、ビタミンCが豊富なパプリカを添えるなど、アレンジしてみてください。
以下の栄養素は、鉄分の吸収を抑制するため摂り過ぎないようにしましょう。

・フィチン酸(米ぬかなど)
・タンニン(緑茶、紅茶など)
・シュウ酸(ほうれん草など)
麦茶やほうじ茶にするなど、飲み物を工夫するのもひとつの手です。緑茶や紅茶などを飲むときは、食事と時間をずらすようにしましょう。

出典:「鉄(てつ)」(厚生労働省e-ヘルスネット)

不足しやすい栄養素⑦亜鉛

亜鉛は肉や魚などの動物性食品に多く含まれているため、ヴィーガンに不足しがちなミネラルです。亜鉛は味覚に関係する栄養素で、たんぱく質やDNAの合成にも関与しています。
不足すると、貧血、食欲不振、皮膚炎、免疫力低下などにつながるおそれがあります。

亜鉛は切り干し大根、枝豆、しそなどに多く含まれているため、積極的に食べるようにしましょう。
また、ビタミンCやクエン酸と一緒に摂ると、体内に効率良く吸収することができます。
梅干しやレモンなどを料理に加えて、亜鉛の吸収率を高めましょう。

出典:「亜鉛」(厚生労働省)

栄養不足にならないためのポイント

食事

ここからは、栄養不足にならないためのポイントを解説します。

栄養バランスの良い食事を心がける

ヴィーガンは、食べるものが限られるため栄養不足になりやすいといわれています。
そのため、普段から栄養バランスの良い食事を意識することが大切です。
食事ではまかないきれない栄養素は、サプリメントや強化食品などを活用すると良いでしょう。

とはいえ、ヴィーガンは肉や魚などを控える分、ご飯やパンなどの炭水化物が多くなりがちです。食べ過ぎると血糖値が上がりやすくなるため、食べる量に注意しましょう。
血糖値の上昇を緩やかにするために、食物繊維を豊富に含む野菜から食べ始めるのもおすすめです。さまざまな食品から栄養を補うとともに、食べる順番も意識しましょう。

ゆるベジタリアン(フレキシタリアン)を目指す

完全菜食主義のヴィーガンは食べられるものが制限されてしまい、栄養不足になりやすいデメリットがあります。
一方、柔軟な菜食主義者のゆるベジタリアン(フレキシタリアン)であれば栄養が摂りやすく、食べられないストレスも軽減できるため、長く続けやすいメリットがあります。

ゆるベジタリアンには明確なルールはないので、自由に設定することも可能です。
例えば、週末だけ、週1日だけ肉や魚を控えて野菜をたっぷり摂るのでも問題ありません。普段の食事では肉や魚、卵、乳製品などが食べられるので、体への負担を軽減することができます。

また、肉を控える食生活のミートレスなら、大豆ミートを活用することで食の幅も広がります。
大豆ミートはさまざまな料理にアレンジできるので、楽しみながらゆるベジタリアンのライフスタイルが実現できるでしょう。

まとめ

ヴィーガンは個人の自由であり、さまざまなライフスタイルの中のひとつです。ただし、極端な食事制限は体調を崩す原因にもなりかねません。
そのため、必要な栄養を補いながら上手に付き合うことが大切です。特にヴィーガンは、以下の栄養素が不足しがちです。

・たんぱく質
・ビタミンB12
・ビタミンD
・カルシウム
・オメガ3脂肪酸
・鉄分
・亜鉛

栄養バランスの良い食事を心がけ、上記の栄養素を意識して摂り入れるようにしましょう。
食べられないストレスや栄養不足が心配な方は、ゆるベジタリアン(フレキシタリアン)という選択肢もあります。
自分のライフスタイルに合わせて、無理なく取り組んでみてくださいね。