環境問題のアプローチのひとつに、肉類の消費を減らすという考え方があります。
とはいえ、今まで肉食中心の生活を送ってきた方にとって、すぐに食習慣を変えるのは難しいですよね。
環境のために肉を減らそうと思っていても、つい食べたくなってしまうこともあるでしょう。
そこで今回は、管理栄養士の下田さんに、環境に悪くても私たちが肉を食べたくなってしまう理由を徹底解説していただきます。
思考と行動が一致しない理由は、意外なところに隠されているのでぜひ参考にしてみてください。
管理栄養士の下田さんについては下記のプロフィールを参照ください。
肉の消費が環境問題に直結するのはなぜ?
肉類は、私たちの身体を作るために必要なタンパク質源のひとつです。
しかし、肉の大量消費により環境に負荷をかけてしまう可能性があります。ここからは、肉の消費がもたらす環境問題について解説します。
温室効果ガスによる地球温暖化
二酸化炭素などの温室効果ガスは、地球温暖化の原因のひとつです。温室効果ガスは、車やバス、工場などのほかにも食べ物を作る過程でも発生します。
とくに、牛のゲップには温室効果ガスの一種であるメタンガスが含まれているため、注意が必要です。
宇都宮大学農学部農業環境工学科准教授の菱沼氏は、肉類の消費による温室効果ガスの排出量の多さを指摘しています。
家畜を飼育するために必要なトウモロコシや小麦などは、海外から輸入することが多く、その栽培には重機が必要となる場合があるからです。
また、化学肥料や輸送するための燃料などの影響により、環境に負荷がかかってしまいます。
さらに、家畜のふん尿処理の過程で温室効果ガスも発生してしまいます。
ふんは堆肥化して処理するのが一般的ですが、その過程で温室効果ガスが発生するため、肉の消費が増すほど地球温暖化の原因になりかねません。
水質汚染
「食べて出す(排せつする)」のは、自然の摂理です。しかし、家畜を育てる過程で生み出される排せつ物は、環境に良いとは限りません。
農林水産省の報告によると、日本で1年間に発生する家畜排せつ物の量は約8,000万トンと示されています。これは、東京ドームの広さの約75倍に相当する量です。
家畜の餌には、大量の化学肥料や除草剤、農薬などが使われているものもあり、排せつ物が川などに流れ込むことで水質汚染が懸念されています。
土壌劣化や森林減少
家畜を飼育するには、大量の餌を確保しなければなりません。1kgのステーキを生産するには、約25kgの穀物が必要といわれるように、飼料を作るための広大な土地が必要です。
餌だけでなく、家畜が増えると飼育場所の準備も欠かせません。そのため、家畜用に森林伐採が進むと、生態系にも影響をおよぼす可能性があります。
また、餌を栽培するために化学肥料や農薬を使用すると、土壌のバランスが崩れやすくなることも。
森林伐採だけに限らず、土壌劣化の影響で土地自体に栄養が行き渡らなくなる可能性があるため、森林減少にも悪影響をおよぼすことも考えられます。
環境に悪いと思っていても肉を食べてしまう理由|管理栄養士が解説
環境負荷を減らそうとして、肉の消費を見直す動きがある一方で、肉料理が止められない方もいます。
ここからは、思考と行動に相違がみられる理由について解説します。
栄養不足の可能性がある
肉料理が無性に食べたくなるときは、身体に必要な栄養が不足している可能性があります。とくに、肉が食べたくなるときはアミノ酸や鉄の不足を疑いましょう。
牛肉や豚肉、鶏肉などには、体内で合成できない必須アミノ酸がバランス良く含まれています。アミノ酸とは、タンパク質を構成している成分です。
20種類あるアミノ酸のうち、11種類は体内で合成できますが、残りの9種類は食事から補わなければなりません。
この9種類を必須アミノ酸と呼び、アミノ酸スコアが100に近いほど質が高く、必須アミノ酸がバランス良く含まれていることを示します。
肉類のアミノ酸スコアは100なので、体内でアミノ酸が不足しているときに食べたくなるようです。
また、赤身肉には鉄も豊富に含まれているため、鉄不足を補うために自然と肉料理が食べたくなることもあります。
※アミノ酸スコアとは、食品における必須アミノ酸の含有比率のこと
疲れが溜まっている
肉が食べたくなるのは、身体が疲れているサインなのかもしれません。肉類には、タンパク質やビタミンB群、鉄などが豊富に含まれています。
それぞれの栄養素の働きは以下のとおりです。
・タンパク質:疲労した筋肉を修復する。不足すると疲れやすくなる。
・ビタミンB群:エネルギー代謝に必要な栄養素
・鉄:体中に酸素を運ぶ役割があり、不足すると疲れやすくなる。
このように、肉には疲労回復に役立つ栄養素が豊富に含まれているため、疲れているときに食べたくなることがあります。
ストレスを抱えている
ストレスが溜まると食欲が増してしまうことはありませんか?ボリュームのある肉料理が食べたくなることもあるでしょう。
ストレスが蓄積すると、感情や精神面に関わるセロトニンが不足しやすくなります。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから作られているため、トリプトファンを含む肉が食べたくなることもあるようです。
ただし、肉などにはBCAAというアミノ酸が含まれていて、トリプトファンを脳へ取り込みにくくする作用があります。
BCAAを筋肉に作用させるために、ビタミンB6(鮭、サバ、鶏胸肉、ささみ、ごまなど)や炭水化物(穀類、いも類、果物など)と一緒に摂ることをおすすめします。
0か100かの極端な思考に陥っている
「自分ひとりが肉を食べなくても環境に与える影響は少ない」「ヴィーガンくらい徹底的に肉食を止めないと意味がない」と考えて、行動しない方は少なくありません。
「肉食が環境に悪いなら止めるしかない」と極端な思考に陥ってしまうと、行動に移せなくなってしまいます。
今まで肉を食べてきた方にとって、いきなり食べられなくなるのは苦痛でしかありません。
とはいえ、肉を食べる回数や量を減らすことでも環境負荷を減らすことはできます。
毎日肉を食べる方の場合、肉を食べる回数がもともと少ない方よりも総合的に肉の量を減らすことができます。
一例として、肉(100g/回)を食べる回数が違うふたりで比較してみましょう。それぞれの1週間に食べる肉の量は以下のとおりです。
▪Aさん:2日に1回→4日に1回へ減らす
100g×3.5日=350g
100g×1.75日=175g
▪Bさん:毎日→週に5日へ減らす
100g×7日=700g
100g×5日=500g
1週間で減った肉の量はAさんで175g、Bさんで200gです。
1週間に肉を食べる頻度はBさんの方が多いですが、もともと食べる頻度が高かったため、結果的にBさんの方が肉を減らすことができました。
肉食中心の生活の方が少し行動するだけでも、肉の削減につながります。
0か100かの思考ではなく、日々の積み重ねで地球にやさしい生活を心がけていきましょう。
肉食を止めるのが難しいときは、フレキシタリアンがおすすめ
肉が止められない方は、ゆるベジタリアンを選択するのもおすすめです。「ゆるベジタリアン=フレキシタリアン」は、ヴィーガンのように肉や魚など厳しい制限はありません。
基本的には植物性食品を中心に食べますが、肉や魚などの動物性食品を食べることもあります。
手軽に始められる食習慣であり、環境への配慮もできるため、無理なく続けたい方にぴったりです。
また、植物性食品中心の生活にすることは、環境負荷も軽減できます。
例えば、牛肉1kgを生産するためには約20,600リットルの水が必要です。大豆は1kgあたり約2,500リットルの水が必要なので、環境にもやさしいといえるでしょう。
大豆を加工した大豆ミートを活用すれば、肉のような食感を楽しむこともできます。食事がストレスにならないように工夫しながら、フレキシタリアンの食生活へシフトしていきませんか?
まとめ
肉の大量消費により、温室効果ガスの排出量の増加や水質汚染、土壌劣化、森林減少などを引き起こすおそれがあります。
しかし、環境に悪いと思っていても肉が食べたい衝動を抑えられないこともあるでしょう。その理由として、栄養不足や疲労の蓄積、ストレス過多などが考えられます。
心理面では、環境を守るためには肉は一切食べられないなどの極端な思考に陥る方もいるようです。
行動に移せないときは、フレキシタリアンなど柔軟な食生活を取り入れるのもひとつの手です。環境のためにアクションを起こしたいときは、考え過ぎずにできることから始めてみてはいかがでしょうか?
エシカルフードのプラントベースフード
私たち、エシカルフード株式会社は「食生活が、地球環境を守る」をテーマに、肉食を控える食生活~Meatless Diet(ミートレスダイエット)~という、新しいライフスタイル・価値観を提唱するために、2021年6月に発足しました。
地球にも、身体にも、動物にも優しいプラントベースドフード」の企画開発・販売と“Meatless Diet”のための有益な情報発信を通じて、あなたの健康と地球環境を守りたいと考えています。
エシカルフードの商品ページはこちらから
https://ethical-food.co.jp/products/
【出典】
「家畜ふん尿処理システム・食品リサイクルの LCA 事例」(宇都宮大学農学部農業環境工学科准教授 菱沼 竜男)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsam/74/3/74_168/_pdf/-char/ja
「家畜排せつ物の発生と管理の状況」(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/02_kanri/
「畜産環境問題とは」(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/01_mondai/
「バーチャルウォーター(VW)量 一覧表」(環境省)
https://www.env.go.jp/water/virtual_water/vw_itiran.pdf
【参考記事】
https://toyokeizai.net/articles/-/467939?page=3
https://www.otsukafoods.co.jp/soymeatlabo/article/column_know1.php
https://www.env.go.jp/water/virtual_water/vw_itiran.pdf
https://emira-t.jp/ace/10917/https://www.tokyo-np.co.jp/article/45380
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/01_mondai/
https://www.yhg.co.jp/taiyo33/column/%E7%95%9C%E7%94%A3%E6%A5%AD%E3%81%8C%E5%9C%B0%E7%90%83%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%81%AB%E6%82%AA%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%82%92%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E6%9C%AC%E5%BD%93%EF%BC%9F%E6%B0%97/
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https://www.americanmeat.jp/csm/bepo/shelf/volume/vol56/column1/
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https://cp.glico.jp/powerpro/amino-acid/entry37/
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/17/2/17_2_120/_pdf
https://kurashinista.jp/column/detail/5451
https://brand.taisho.co.jp/contents/sports/505/